食料生産力や天然資源に乏しい日本にとっては、これらの輸入は国の安全保障につながるものです。自由貿易でこれらの供給を他国に依存する度合いが高まれば、何らかの事情で輸入が阻害された場合には危機的状況に陥りかねません。クリミア問題でロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したことは記憶に新しいものです。また、天然資源の日本への輸出停止がかつての太平洋戦争の動機の一つになったとも考えられ、日本政府は大きな懸念を持っているはずです。
したがって、農業分野を含めた完全自由貿易化を無条件に受け入れることは国家の存立を脅かすことを懸念し、その代償として一部の工業製品に対する関税の当面の存続を認めて妥協しなければならなくなったのでしょう。これはバランスを保った協調のように見えるかもしれません。しかし、自由貿易に孕む本質的な課題を明確に整理できていないために生じた歪みであると言えます。