2007年3月29日木曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「原発の制御棒落下トラブル」に学ぶ。 ― 報告と情報共有(3)

 原発の制御棒落下トラブルの「隠蔽」が、さらに東京電力でもあったことが報道されました。マスコミ各社はトラブル情報を隠蔽したことを非難するのに躍起になっています。
私は先回このブログで、報告と情報共有がうまくいかない要因について触れました。情報共有は罰則規定などのペナルティを設けてもうまくいかないことと、そもそも自己に不利な情報を報告することをいくら責めてみても甲斐のないことなどについて書きました。
皆さんの所属する企業や組織でも、情報共有がうまくいかないと考えている人が多いのではないでしょうか。

 では、どのようなことをすればトラブル報告や情報共有が活発になるのでしょうか。
この課題については、後々、初期対応の本論で述べていきたいと思いますが、今回は現場と当事者の意思決定の仕組みについて分析してみます。

 まず、報告する当事者や現場は、報告することによって損するか得をするかというとても単純な天秤によって量ります。そして、多くの場合、報告しないほうが得だと判断することになり、結局、報告しないこととなります。これは減点主義の組織であればより明らかです。また、行政が絡む場合には不利益な結果が明らかでるので、望ましい報告は期待できません。
そこで、報告しなかった場合の処罰をさらに厳しくして、報告しないことの損を大きくすることで報告させようとすることがあります。先回紹介したバスの車内事故報告の事例が典型例で。しかし、これには限界があることがすぐにわかります。なぜなら、重大な事故・トラブルが発生したときに予想される不利益が大きすぎて、頭の中が真っ白になって冷静な判断ができなくなり、深刻な事態に陥ってしまいます。

 私がアドバイスさせていただく方法は、報告によるメリットを大きくする態勢づくりです。

 これには、大まかに整理すると2つに整理できます。
  1. 自ら報告することによって、罰を減免する。
  2. 報告すること自体にメリットがあることを信じさせる。
 一つ目の罰の減免は、刑事事件の「中止犯」や「自首」として制度化されているものも有名です。

 二つ目の報告するメリットを確信させることはとても難しいのですが、効果は絶大です。報告することによって自分が助けてもらえると信じられることができるような仕組みができれば、パニックになって冷静な判断が困難なケースでも大いに役立つことになります。しかしながら、これを実現している企業や組織は皆無に等しいと思われます。しかし、この仕組みづくりが初期対応の基礎となることを覚えておいていただきたいのです。

2007年3月20日火曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「原発の制御棒落下トラブル」に学ぶ。 ― 報告と情報共有(2)

 先回に続いて、事故・トラブル報告と情報共有について考えてみます。

 今般の過去の原発トラブルで、マスコミが声高に指摘した事故報告やその情報共有がリスクマネジメントや危機管理において成否の鍵を握ることはまったくその通りです。

 しかし、マスコミによる実際の報道の内容は、建設的な提言ではなく非難中傷の域を出ません。最近のマスコミ報道は、このような事件・事故・トラブルが露見すると、適正な法的プロセスを経ることなく、鬼の首を取ったように即座に糾弾・断罪しようとするケースが大半です。

 もし、事故やトラブルについて、国等の行政機関へ報告した場合、行政処分や刑事告発、行政監査や立ち入り検査など、当事者にとっては不利益や負担の増加という事態に直面することとなります。

 たとえば、鉄道、バス、トラック、タクシーなどの運輸事業者で一定基準に当てはまる事故が発生した場合に、国土交通省(運輸局)への報告する義務が事故報告規則に規定されています。最近では、バスにおいて乗客が車内で転倒する事故で、軽傷の場合でも報告すべきことが数年前の改正で規定されました。この種の車内転倒事故がバスでの人身事故の約3分の2を占めており、この種の事故発生件数を抑制できれば全体の人身事故の件数を減らすことができると当局は考えられたわけです。そこで、情報共有のため報告義務を厳しくしました。

 しかし、この報告義務の範囲拡大は、その後、思わぬ運用に用いられることとなりました。

 報告基準に該当して運輸局に報告があった場合、それを契機に監査に入り、行政処分をなされることになりました。また、一旦行政処分を受けると、それ以後1年間は事業計画の変更を認めないという不利益処分も行われることとなりました。さらに驚きは、その事業計画変更不認可の期間中に再度事故報告を行った場合は、その報告からさらに1年間、事業計画の変更が認められない期間が延長されるという、恐るべき運用がなされるようになりました。

 そもそも、バスでの車内転倒事故は、衝突事故に伴うものを除けば、利用者の乗車マナーがおもな要因であるケースがほとんどです。したがって、一事業者だけの取り組みでは効果的な対策が見込めないため、国土交通省主導の下に全国的に情報を共有して分析を行い、社会全体として事故防止を呼び掛けて取り組んでいくことがリスクマネジメントとして初めて有効な解決策を提示することになるでしょう。

 しかしながら、実際には、報告制度が本来の目的を逸脱して事業者の制裁のために運用されているため、情報共有の本来の目的効果が減殺され逆効果となってしまっています。

2007年3月19日月曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「原発の制御棒落下トラブル」に学ぶ。 ― 報告と情報共有(1)

 北陸電力志賀原発1号機の臨界事故に関連して、1988年と1991年に東北電力女川原発1号機と中部電力浜岡原発3号機でも、沸騰水型軽水炉で原子炉の定期検査中に制御棒が抜け落ちるというトラブルがそれぞれ発生していたが、国に報告がなかったことが大きく報道されました。

 この事例をもとに、3回にわたって、リスクマネジメントや危機管理について学ぶことにします。

 まず、今回のトラブルにおけるマスコミ報道の主なポイントを挙げてみます。

  1. 制御棒の脱落は臨界事故につながるおそれがあったのだから、国に報告すべきであった。
  2. 国への報告が法令上の義務がないとしても、トラブル発生について情報共有をしておけば後の原発事故・トラブルを防げた可能性があったのだから、「情報共有」の目的で国への報告または公表すべきであった。
  3. トラブルの報告または公表しなかったのは、原発を運用する電力会社の安全意識が低かったことの表れである。
 たしかに、これらの主張は至って真っ当なものであるといえます。情報を素早く伝え、関係者と情報共有を行うことは、リスクマネジメントにおいても大変重要なポイントです。また、危機管理においても、情報の伝達・共有が重要であることは言うまでもありません。

 次回は、情報の伝達・共有が阻害される要因について考えていきます。

2007年3月16日金曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「ライブドアの堀江貴文元社長に実刑判決」に学ぶ。

 本日、東京地裁で、ライブドア元社長の堀江貴文(ホリエモン)氏に、懲役2年6月の実刑判決が言い渡されました。


 今回の事件を通じて、リスクマネジメントおよびコンプライアンスの観点から、独自の分析を試みてみます。

 まず、資本市場とは、それ自体が目的ではなく、社会の発展のための仕組みです。つまり社会の「道具」であるといえます。

 資本主義に組み込まれた事業会社は、事業そのものの道義性については、今後もより厳しく問われていくことになると思います。

 一方、事業そのものではなく、それがペーパー化された資本市場は、取引自体の道義性を問うことはほとんど無意味で、ゲームと同じでルール内での創意工夫を最大限に発揮して妙手を繰り出すのがプロフェッショナルであるということになります。つまり、この「市場」内ということに限定して考えれば、ルールを最も自分に都合よく利用して最大の利益を上げる者が勝利者となります。

 たしかに、同義的な行動を行うことが全く意味がないかと問えば、決してそうではありません。たとえば、持ち株を時価よりも大幅に安く売却し、多くの者に利益を与えることがあれば感謝されることでしょう。

 しかし、本来の市場というのは善意を必須とする場ではないのです。狡猾に利益を追求する者が勝者となります。そういう意味で、実態社会とはまるっきり異なる世界であることを理解しなければならないということです。

 ただし、ルールを守るということは、市場において唯一かつ絶対に求められることです。ルールが守られなければならないし、ルールに明確に違反していればペナルティなり退場させられなければなりません。しかし、その線引きは明確でなければなりません。サッカーで例えれば、フィールド上の選手は、ボールをキープする相手チームの選手に対して、ボールを奪い取るためにファールにならない程度でアタックしなければなりません。そうでなければ消極的であると評価されてしまい、以後の試合に出場できなくなるでしょう。とても心優しい選手がいたとして、最近成績が思わしくない相手チームの選手にチャンスを与えるためにボールを渡してしまったら、どうなるでしょうか。ボクシングや相撲の世界も想像していただいたら、これ以上の説明の必要はないでしょう。

 しかし、審判から反則をとられては損をしてしまいます。つまり、その境界線ぎりぎりのところで、いかに知恵を発揮するのが勝敗の分かれ目になります。
もし、道義的な行動をルール化するとどうなるでしょうか。たとえば、サッカーでゴールが決まると、次のプレイは得点を取られたチームのキックオフで始まります。このように、明確で客観的に適用できるルールを作っておけばゲームは成立するし、面白くなります。

 したがって、堀江貴文元社長が繰り返し主張しているように、ルールを変更していくべきだという主張もそれなりの論拠があるといえます。

 しかし、現実には彼はゲームの敗者となりました。彼の最大の失敗は、現実の事業分野で製品・サービス提供において実態が薄かったため、バーチャル世界である資本ゲームでの勝敗が現実の事業そのものに極めて大きな影響を与えてしまったということでしょう。

 そういう意味で、ライブドアの事業形態そのものがリスクの高い構造となっていたといえます。ライブドア事件の逮捕とそれに続く裁判は、ライブドアの事業のリスク構造が、顕在化される引き金(ペリル)になったと見ることもできます。

 大規模地震が発生して建物が倒壊する例をとれば、地震の発生が引き金となりますが、耐震性の低い建物の構造そのものがリスクであるといえます。リスクマネジメントに取り組む場合、地震の発生に注意することも必要ですが、それよりも建物構造に注目して対策を立てておくことも大変重要なポイントになるというわけです。

2007年3月13日火曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「ボンバルディア社製の全日空機の胴体着陸」に学ぶ。

 連日、様々な出来事があります。今回は本日午前に高知空港(高知竜馬空港)で発生したボンバルディア社製の全日空機(エアセントラルに運行委託)の胴体着陸を教材として、リスクマネジメントと危機管理について考えてみます。

 まず、胴体着陸そのものについては、模範的な取り扱いであり申し分ありませんでした。また、乗客のインタビュー報道によれば、着陸成功後の機内の案内についてもよく訓練されていることが感じられ、落ち着くことができたという主旨のコメントがあったようです。

 注目すべきはこの後の対応です。着陸後、しばらくは乗客が降りてきませんでした。しばらくしてドアが開き、やがて乗客が飛び降りるように順次降りてきました。映像で見た感じでは、高さは60~70cm程度でしょうか。出口ドア付近に、乗務員や全日空関係者の姿は1人か2人しか見えませんでした。機長・副操縦士は、何をしていたのでしょうか。また、全日空、空港関係の地上職員は何をしていたのでしょうか。消防服を着た人と客室乗務員と思われる人が飛び降りて、着地した乗客の身体を抑える程度のことをしていたに過ぎません。

 この時点で火災や爆発などの機体に関する二次災害の処置と済ませて、その後、直ちに乗客の避難誘導に当たることが最優先と思われます。確かに、誰かに役割が決まっていた場合に、他の人は別のことに当たればよいという考え方もあります。今日のトラブルの場合は、実際に負傷者がでていない状況であれば、他のことよりもまず五十数名の乗客を、安全に避難誘導を行うこと以上に、優先すべきことは無かったはずです。この点において、マニュアルによる危機管理が、関係者の物事の本質をとらえ思考力を働かせて行動するという能力を弱めてしまった、典型的な事例であると考えられます。
そして、乗客が降り始めるまでに、十分な時間があったわけですから、乗務員を含めて、もっと多くの関係者の援助ができたと思われます。

 このときに、降り口が地上から高いことをすばやく感じ取り、階段や踏み台を用意するか、降りる前から乗客の両脇を抱えて、静かに着地させるようなサポートが必要となるのですが、とにかく、飛行機の着陸が無事に済んだことに安堵したのか、最後まで乗客の安全について気を緩めないということが、途切れてしまったようでした。
つまり、乗客の安全そのものよりも、「事故」にしないということに目が向いてしまうと、このようなことが起こります。

 私は、各種の運輸関係事業の社員教育を担当しておりますが、まさに、このようなケースを想定して、常にいかなる行動をなすべきかについて指導させていただいております。マニュアルに沿った通常モードと、思考力を最大限に発揮する必要がある非常モードの切り替えに戸惑う人が多いことが分かってきました。

 マニュアルは、やみくもに何でも当てはめればよいというものではなく、つねに、いまマニュアルを適用すべきか、マニュアルでカバーできないものは何か、ということについて考えながら行動しなければなりません。

 このオンマニュアルかオフマニュアルかの切替えスイッチに手を添えながら、全力で走り続ける姿勢が危機管理の決め手となります。

 次回は、もうひとつ、今回のトラブルの発生そのものから見えてくるリスクマネジメント上の重要なポイントについて、考えてみたいと思います。

2007年3月12日月曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「日興コーデイアルグループの上場維持」に学ぶ。

 日興コーディアルグループが上場維持されることを東証が発表しました。この判断が適切であったか、そうでなかったかの判断については、ひとまず置いておくことにします。
まず、この結論は、日興コーディアルの現経営陣にとってはよい報告であることは間違いないでしょう。

 このような望ましい結果を目指して危機管理を実行することが、危機管理にかかわる人たちにとって最大の目標であることに異論は少ないでしょう。しかし、このような望ましい結果は、優れた危機管理によってもたらされるとは限らないことに留意することが必要です。

 というのは、望ましい結果得られるのは、危機管理の優劣ではなく、政治的影響力や財務力といったものによって決まることが少なくありません。日興コーディアルグループとライブドアとの違いはこれをよく反映しています。危機管理の程度でいえばどちらも初歩レベルであって、当たり前のことがなされたに過ぎません。

 危機管理において、「結果は重要ではない」という逆説的なことを述べることに不思議に思われるかもしれません。しかし、このように、結果第一主義をとることによって、あまりに多くのものを見失ってしまうことを知っていただきたいのです。
つまり、危機管理で失敗をもたらす要因は多くのケースで、結果にこだわり過ぎることにあります。

2007年3月9日金曜日

初期対応の心得 第8回 臨機応変の危機管理3

 先回は、臨機応変な対応は、ぶれない価値観を持ってどのような行動をするのかを決めるによって実現できることを書きました。

 したがって、まず、会社が護る(守る)べきものごとの優先順位(コーポレートプライオリティ)をあらかじめ決定しておくことが第一歩となることが分かるでしょう。

 たとえば、鉄道事業であれば、人の命を1番とするか、列車が遅れないという運行の正確性をとるのか、列車頻度やスピードアップという利便性をとるのか、明確に決めておかなければ的確な初期対応態勢が構築できないということです。

 ちなみに、鉄道会社であればどの会社も「安全綱領」などに、輸送の安全を第一優先順であることが文書で明記されています。

 それなのに、なぜ、JR西日本福知山線の尼崎脱線事故が起きてしまったのでしょうか。これについては、様々な傾聴に値する見解が出されていますが、いずれ、初期対応態勢の観点からも見ていきたいと思っています。

2007年3月6日火曜日

初期対応の心得 第7回 臨機応変の危機管理2

 「場当たり的」と「臨機応変」は、どちらも、その時々で、対応方法が変化するという点で、とても似ています。

 しかし、この二つは、その根幹において、まったく異なる性質を持っています。

 「場当たり的」は、心の軸がないため、その行動もその時々で異なってくるのです。場当たり的な対応をする人は、多様なトラブルやクレーム対応における状況変化ではなく、自分自身の心の揺れによって、行動を変えます。

 一方、「臨機応変」とは、確かな価値観の軸をしっかり持っていて、しかし、その時々の状況が微妙に一つ一つ異なることを把握して、その対応方法を変化させるのです。「臨機応変」な対応を行う人は、自分の感情によってではなく、状況の変化を読み取り、ぶれない価値観に照らし合わせて行動を決するのです。

2007年3月5日月曜日

初期対応の心得 第6回 臨機応変の危機管理1

 これまでも述べてきたとおり、初期対応は、危機管理、リスクマネジメント、クレーム対応をはじめ、経営のあらゆる側面に適用することが可能で、組織変革や成長の効果が期待できます。
 しかし、話を広げすぎると初期対応のポイントがぼけてしまうおそれがあるため、これからしばらくは、事故やトラブルが発生したときやクレームを受けたときを想定して話を進めていきます。

 まず、最も基本となるのは、「その場しのぎ」や「場当たり的」な対応ではない「臨機応変」な対応力です。これらがいかなるものであるのかを次回以降に見ていくことにします。

2007年3月2日金曜日

【事例に学ぶ初期対応】 「不二家の安全宣言」に学ぶ。

このところ、危機管理の分野で衆目を集めている不二家の件で、昨日、不二家がいわゆる「安全宣言」を出したことについて、考察をしてみたいと思います。ただし、以下は、社会的な非難を意図したものではなく、その反対に擁護を意図したものでもありません。



事故や不祥事の当事者となった企業、特に人の口に直接入る食品を扱っている産業では、早く「安全宣言」を出して、事業の再開を図ろうとする姿が見られます。

今回の不二家の件でも、新聞記事には、「安全宣言」の見出しが躍りました。しかし、少し冷静に戻って、「安全宣言」という言葉を手掛かりに考えていくと、見えてくるものがあります。



(不二家ホームページより)


一点目に、これは、製品の安全を宣言したものではなく、安全な製品を出荷する体制ができあがったことを宣言したものであると捉えることが、正確です。例えば、ISO14001の取得を例にとると、環境にやさしい生産プロセスの構築や製品の出荷をすることが、認証取得の重要な要素となっています。しかし、ISO14001の認証を取得したからといって、それを根拠に、出荷した製品そのものが、環境にやさしいものであるということを保証するものではないため、これを宣言することは禁止されています。もし、その違反が発覚すれば、認証はく奪もあり得ます。

つまり、生産プロセスや製品企画における手順が確立されているからといって、実際に出荷されている製品が目標レベルを完全にクリアしていることの「証明」にはならないということです。

二点目に、「お客様に安心していただける体制」とは、どういう意味を持っているのかを、考えることが重要です。この言葉には、企業の文化そのものが表現されています。



当たり前のことですが、お客様が安心するか否かは、お客様の判断次第です。「安心」は、「安全」と「信頼」の相乗効果によって、得られるものです。決して、製品を提供する企業側が決められることではないのです。企業が「これだけの対策を講じたのだから、我々の製品が安心してもらえるのは当然」と考えた瞬間に、企業と消費者の信頼関係が崩壊し、「安心」はるか彼方へ遠ざかってしまいます。

それでは、私たちは、こういう場合に、どういうメッセージを地域社会に発信したらよいのでしょうか。

製品の安全は、自分たちの目標、使命であって、永遠に努力して向上し続けなければ、すぐに安全は失われるという危機感を持ち続ける姿勢を示すことが効果的です。したがって、現時点ですでに安全な体制が出来上がったということは、この向上努力を放棄したと受け取られないとは限らないということです。

したがって、安全になったから、販売を再開するのではなく、販売を再開するにあたって、安全向上への努力を続けるため「心構え」と「身構え」という二つの「構え」ができたことをもとに、重大な危機感を持ってスタートラインに立ったことを宣言することが望ましいといえます。

今回の「安全宣言」では、危機管理やクレーム対応において、重要な示唆を与えてくれる機会となりました。


末筆ながら、不二家の皆さんにも、販売再開に決して安堵せず、逆に、これからは、消費者の厳しい目にさらされるための、大変厳しい第一歩であるとの危機意識を持ち続け、再起を誓ってほしいと思っています。

2007年3月1日木曜日

初期対応の心得 第5回 【発見・注目・対応】のメソッド

 今回は、組織に変革と成長をもたらす初期対応を身につけるにあたって、その核となる【発見・注目・対応】のメソッドについて解説します。
 第一は、「発見」です。さまざまな兆候に「気づく(発見)」することです。
 第二は「注目」です。第一段階で気づいたものごとについて「広く、深く考える(注目)」ことによって、課題やチャンスを導くことです。


 第三は「対応」です。第二段階で考えることによって導かれた課題に対して、「行動する(対応)」に移すことです。

 この【発見・注目・対応】メソッドは、PDCAよりも一段階少なく、三段階となっているのが特徴です。極めてシンプルな流れであるため、一度身につけてしまうとその応用は極めて容易です。

 この【発見・注目・対応】のメソッドは、組織マネジメントの重要な課題について適用が可能で、その応用範囲は危機管理、リスクマネジメント、クレーム対応はもちろん、さらに組織経営の全般のあらゆる面に適用することが可能であり、劇的な効果が期待できます。



 現実に起こってしまった事故やトラブルについて使えば、危機管理のキーメソッドとなります。

 消費者や取引先のクレームに使えば、クレーム対応のキーメソッドとなります。


 潜在的な危険や不確定要素に使えば、リスクマネジメントとなります。

 従業員に使えば、労務管理、人的マネジメント、人材の資質向上などに活用できます。

 ビジネスの種に使えば、新規事業開発に活用できます。

 仕事のやり方に使えば、業務プロセスの改善に活用できます。

 上に挙げた例だけでなく、初期対応の【発見・注目・対応】メソッドを極めてベーシックなマネジメントメソッドとして、組織のマネジメント全般大いに活用いただきたいと願っています。

2007年2月28日水曜日

初期対応の心得 第4回 PDCAによるマネジメントシステムの限界

 今回は、いったん、危機管理やリスクマネジメントといった個別のテーマから離れ、組織のマネジメントについての課題を見ていきます。

 一般的には、ISO9001(品質マネジメント)やISO14001(環境マネジメント)などのマネジメントシステムでも有名な、Plan(計画) - Do(実施) - Check(検証) - Act(改善)のいわゆるPDCAのメソッドが、ほぼデファクトスタンダードとなっています。

 このPDCAのメソッドは、どのような組織にも汎用的に適用が可能で、取り扱う対象をたとえば「品質」から「環境」に置き換えればそのまま使えてしまうという、いたって便利なマネジメントメソッドです。

 一方で、PDCAによるマネジメントシステムは、業務プロセスの文書化や記録の保存など、現場の負担が著しく増大し、また仕事のマニュアル化によって応用力の低下を招きやすいといった課題も多く、事務局は熱心だけれども組織に所属する個人個人はそのマネジメントシステムにあまり好意的な印象を持っていないというケースも散見されます。

 一つの対策として、ISO14001の2004年の改定では文書化を要求する項目が大幅に削減されることとなりました。しかし、実際の運用に際しては結局は文書化をしなければならないことが多いのが現実です。

 マネジメントシステムの専門家の中には、この課題のような弊害が起こるのはPDCAの本来の仕組みを十分に浸透させていない結果によるもので、このPDCAのマネジメントシステムそのものの課題ではないとする向きもあります。

 たしかに、多くのケースではこういった見解も的確であろうと思います。しかし、PDCAメソッドが内含する性質そのものに由来して、仕事の硬直化や組織の活力低下といった弊害に結びついている面も見逃すことはできません。

 PDCAによるマネジメントシステムは、業務の改善にはかなり寄与することが期待できますが、製品・サービスの付加価値向上や組織の成長にまでその効果を波及させるためにはさらに多くの工夫が求められます。

 次回は、もう一つのマネジメントメソッドとしての「初期対応」の秘めたる力について記す予定です。

2007年2月27日火曜日

初期対応の心得 第3回 初期対応のススメ 3

 「初期対応」という日本語は、最近ではかなり一般的になってきました。 私としては、少し感慨を覚えます。今日は、私と「初期対応」という言葉との関わりの足どりについて記してみます。

 「初期対応」は、皆さんもご承知のとおり、決して新しい日本語ではありません。しかし、リスクマネジメントや危機管理をはじめ経営に関するキーワードとして注目されるようになったのは、極々最近のことのように思います。

 先回にも記載しましたように、私がおりました鉄道会社では、私が担当となる20年近く前から伝統的に「初期対応」という言葉を使用していました。私が本社で事故の担当をしていた10年ほど前には、管理者教育やマニュアルを用いて浸透させることに注力し、事故やトラブルが発生し、現場から私へ「どうしたらいいでしょうか」と相談を受けたときは、私がひと言「初期対応」といえばすぐに皆が行動を起こせるまでになっていました。

 その後、同業の鉄道他社にもこの初期対応を紹介したところ、私がまとめた「初期対応の心得・ダイジェスト版」というタイトルをつけた小冊子を、担当者のマニュアルとして、また社員教育のテキストとして多くの会社で利用されるようになり、今では首都圏の電鉄業界でデファクトスタンダードのようになっています。

 また、これを契約先の損害保険会社へも紹介したところ、しばらくして、保険業界でも、自動車保険関係の資料で当たり前のように初期対応という言葉が使われるようになりました。私が「初期対応の心得」の小冊子をお渡ししたその損害保険会社のグループのリスクマネジメントのコンサルティング会社が出したリスクマネジメントの解説書には、初期対応の項目が設けられており、私の「初期対応の心得」と似た記載がありました。

 ところで、10年ほど前に危機管理、特に広報対応の分野で、田中正博氏(当時・電通PRセンター)が「初期対応」という言葉を使われていたことは特筆に値します。

 一般的には、有力食品メーカーの集団食中毒事件で、記者会見で開き直った経営トップの映像が全国に流れ、その頃からマスコミ関係においても「初期対応」という言葉が使われるようになったように思います。

2007年2月26日月曜日

初期対応の心得 第2回 初期対応のススメ 2

 これから、このブログで、「初期対応」について書き綴っていくにあたって、まず、「初期対応」という言葉について考えてみることにします。
わたしは、「初期対応」という言葉が誤解されることをいつも懸念しています。というのは、「初期」という言葉から、何かトラブルが発生したときに「最初だけ何かやれば、それで初期対応は終わりだ」と勘違いされることがあるからです。

 私は、初期対応はもっとも最初に手がけるものではあるが、その後も決して手を緩めることなく、トラブルの終局まで取り組むことに広げるとともに、トラブルが発生していない日常でも、初期対応に必要な「構え」をしておくことによって組織の変革が実現していくことを目の当たりにしてきました。

また、「初期対応」がマスコミ対策と同義であるかのような論調も見受けられます。しかし、私が使う「
初期対応」では、マスコミ対応は核心ではなく付随的なものであると考えています。 決してマスコミ対策が必要ないという意味ではありません。私も、マスコミ対応について実際に役割を果たしてきました。しかし、マスコミ対応に目が行き過ぎて、初期対応で本質的に大切なことを見落としてしまっている事例があまりに多く目に付くのです。

こうしたことから、私はこの10年間ほど、「初期対応」に替わるよい言葉がないかと探し続けていました。しかし、そうこうしている間に、企業や公的機関で相次ぐ不祥事によって「初期対応」という言葉があっという間に定着してしまったため、新しい言葉を探すのではなく、私が取り組んできた「初期対応」が組織に浸透するしたがって生じる波及効果について広く知ってもらおうと考えるようになりました。

初期対応の心得 第1回 初期対応のススメ

ガス機器によるCO中毒事故や、食品衛生管理問題、エレベーター事故など、事件・事故が続発していますが、このところよく耳にするのが「初期対応」という言葉です。この「初期対応」をしくじって、マスコミから集中砲火を浴びてさらに危機を深め、泥沼にはまり込む事例に事欠きません。

 ところで、私が担当していたリスク対応の仕事では、現場で直面する事故発生時の対応方の指導において10年以上前の当時から「初期対応」という言葉を用いてきました。先輩諸氏より「初期対応」の言葉を受け継いで、私もその効果を実感し、リスク対応の柱に据えて現業の態勢構築に取り組むようになりました。

「初期対応」とは、危機管理の中でもさらに限定的な応急処置と捉えられるのが一般的でしょう。
しかし、このブログでは、単なる応急処置にとどまらず、組織や平時の仕事に大いに活用することによって得られる驚くべき「初期対応」の真価についてお知りいただくため、書き留めていきたいと考えています。

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