「弱者保護」は慈悲深い社会の一つの到達点であるといえるでしょう。弱者保護を国家対国民の間で用いるのはよいのですが、これを私人間に当てはめると問題が生じます。弱者保護の裏返しとして、相手側に過剰な責任を負わせることになる場合は注意が必要です。
日本国憲法第29条は、私有財産に不利益になるような国家作用を及ぼすとき、不利益分を補償すべきことを定めています。
日本国憲法 第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
歩行者が事故相手の自動車運転者に損害賠償請求する場合、裁判所が運転者の責任を加重することは、この憲法の定めに抵触する可能性があります。それにもかかわらず、自動車保険の実務では、自動車側の過失を重く見る基準が用いられています。
経済的な諸問題では、「弱者保護」ではなく「弱者救済」が必要です。自動車の人身事故では、自賠責保険によって歩行者はいわゆる「過失割合」以上の補償が受けられる「弱者救済」が制度がされています。この自賠責保険は国のバックアップがあるため、相手側自動車運転者に負担を加重することにはなりません。しかし、自賠責保険は限度額があり、怪我の場合は120万円が上限であり、これを超えると当事者の負担が生じます。
行政が行うべき「弱者救済」を、「弱者保護」と混同して私人間に当てはめるという誤りがあれば、これを正していく取り組みが必要です。